のさり―水俣漁師、杉本家の記憶より

水俣には、水俣病の資料を保存している施設は民間の水俣病歴史考証館と市が設立した水俣市立水俣病資料館の2か所がある。この本とは後者の資料館で出会った。この資料館には水俣病にされ、病院の壁を引っかきながら亡くなっていった患者の爪痕が残されている。それを見ただけで、その症状がどれほどまでに精神、肉体を鋭い痛みで蝕(むしば)んでいったのか、その感覚が襲ってきた。この本はとても読みやすい。小説のような形で、著者が取材した杉本家の人たちの生の声を聞くことができる。社会の中で分断され、孤立させられながらも懸命に生きていく。その姿勢に私は何も言う言葉が見つからなかった。そして、一番本書の中ではっきりとしているのは、水俣病を生み出したチッソに責任がある点だろう。いかにして原因を突き止め、対処していくか。チッソも早くから対処していれば、業績は落ちたかもしれないが、水俣病の拡散はいくらか防げたはずだ。ただ、自分自身がチッソのトップだったとしたら、そのような判断ができたのか、人のことを一方的に攻めるだけでなく、自分自身でもそのような問いを抱え、考えていく必要を感じた。ぜひ水俣を訪れ、多くの人の声を聞いてみてください。